深夜のロードワーク帰り
月を見ながら
君に
会いたい、って思うたびに
少し不安になる
会いに行こうとするたびに
少し、立ち止まって
迷惑そうな顔とか、されたら
きっと、立ち直れないなぁ、って
毎日学校で会えるんだから
電話で十分でしょ?って
平気そうに笑う君は
突然目の前に、俺が現れたら
どんな顔をするんだろう
そんなことを考えてるうちに、
やっぱり、いつも
時間は過ぎて――――――
もう、寝てるかな?
声だけでもいいから、聞きたいなぁ
3回だけ鳴らして
それで、諦めよう
いつも
やっぱり、君の声は聞けない
『もしもし?』
3回だけ鳴らして切るはずの電話で
「・・・・・・・・・・・・え?」
『「え?」って、どうしたの?』
出るはずのない君の声が、耳元から聞こえて
少し、戸惑った
「起きてた?」
『うん』
君の声が聞けるなんて、思ってなかったから
『どうしたの?』
どうもしてない、とか言ったら
怒るかな?
『おーい、キヨー?』
「ちょっと・・・・・・」
『うん、「ちょっと」?』
先を促されて
「声が聞きたかっただけだから」
焦るあまり早口になって
「じゃあ、おやすみ」
プツ、ツー、ツー、ツー
・・・・・・切ってしまった
明日、学校で会った瞬間殴られるかも――――――
家までの道のりを
肩を落としながら
ひたすら走って
最後の曲がり角を曲がった瞬間
家の前に
君が居た
「どうしたの?」
「ソレはこっちのセリフなんですけど」
うんざりとした顔で答える君に
「・・・・・・殴りに来た、とか?」
恐る恐る聞くと
「は!?馬鹿じゃないの!?」
もう帰る!と言って背中を向けた君の肩を捕まえて
「ちょっと、ちょっと待ってって!」
とにかく謝ろう、と思って頭を下げかけた俺に
「変な電話してくるから、なにかあったのかもって――――」
振り向いた君が、
「あんな電話もらったら普通心配するでしょ!?」
ばーか!と付け加えて、また歩き始めるから
急いでその背中を抱き締めて
「ごめん」
謝って
「ありがとう、本当は、すごく・・・・・・会いたかったんだ」
そう呟いた瞬間
君の耳が、朱く染まった
「正直の頭に神宿る」
「でね、その時先生が―――――――」
可愛い声で、今日の出来事を一つ一つ報告してくれる先輩から、
「そしたらね、急に隣の席のコが立ち上がって―――――――」
目が離せなくて。
「すごいんだよ。だってね―――――――」
透き通るように白い肌が、今は少しピンクに染まって、
大きな瞳は、俺を映す。
いつまでも見ていたいくらい、キレイで、可愛くて、
「チョタ、ちゃんと聞いてる?」
拗ねたようにへの字になる唇も、
「・・・聞いてますよ?」
今すぐに、塞いでしまいたいくらい。
俺以外の誰にも、その声が聞こえないように。
抱き締めて、俺以外の誰にも見えないように、
隠してしまいたい。
俺以外の誰も、映してしまわないように、
その目を塞いでしまいたい。
こうして二人で歩いてる今も、
ずっと我慢してるんです。
触れたくて、抱き締めたくて、
口付けたくて。
仕方がない、なんて言ったら・・・・・・
先輩は、どうしますか?
逃げて、しまいますか?
それくらい好きなんです、って
言ったら、どうしますか?
喜んで、くれますか?
俺のこと、好きですか―――――――?
ゴンッ――――――
「チョタッ・・・・・・・大丈夫?」
右側頭部に走った激痛は、路上にむやみやたらと植えられた電信柱のせいでした。
「大丈夫です・・・・・・」
「よそ見してるからだよ?」
そう言いながら精一杯背伸びして、俺の頭をさすってくれる先輩に
見惚れて目を離すことができなくなった日から、
俺はよく色んなモノにぶつかるようになりました。
(先輩のせいです・・・・・・)
なんて、恥ずかしいセリフは
忍足先輩じゃないから言えませんけど・・・・・・・・・。
「犬も歩けば棒に当たる」
土曜の夕方
ドライブに行こう、という彼女の急な提案で
何の準備もせずに走り始めた車は
30分後
どんどん目的地から遠ざかっていた
「・・・・・・運転、代わるか?」
そう聞いても、真剣に前だけを見つめる横顔は
「大丈夫!」
としか答えない・・・・・・
というよりも、答える余裕が無い様子で
「そろそろUターンしないと、どんどん遠ざかるぞ?」
控えめに、そう言ってみても
「わかってる!」
短い一言が返ってくるだけ
「中央寄りの車線を走ってないとUターンできないんじゃないか?」
歩道寄りの車線を走っている彼女にそう提案してみると
「だって右側の車線怖いんだもん!」
そんな答えが返ってきた。
「・・・・・・・・・じゃあ、左折して左折して左折して右折、だな」
「左折・・・・・・?」
頼りなさ気な横顔が、少し泣きそうに緩む
「あぁ、次を左折」
左ウィンカーを点灯させて落ち着きなく周りを見る顔が
たまらなく愛しくて、目元が緩む
「なに笑ってんの?」
順調に3度の左折をクリアした彼女が、
少し余裕を取り戻した様子で、俺を見た
「いや・・・・・・ちょっとな。それより、次は右折だぞ?」
再び、歩道寄りの車線を走る彼女に提案した数分後、
車は交差点を直進のまま通り過ぎた
なんとも言えない表情で、ハンドルを握り締める横顔に視線を向けると、
「右側の車線怖いんだもん!」
・・・・・・なるほどな。
どうしても彼女は右側の車線を走れないらしい
いいデータがとれた・・・・・・と、いうことにしておこう
まぁ、いずれは目的地に辿り着くだろう
今日中に辿り着ける確立は、
限りなく0に近いけれど―――――――
「すべての道はローマに通ず」
雨の降る朝
聞き覚えのあるような、ないような
そんな雑音に、起きだしてみれば・・・・・・
『パチーン』
リビングから漏れる音は・・・・・・
『俺だ!』
ガタッ―――――――
「なに観てんだ、お前!?」
急いで開けた扉の向こうで、振り返った顔がキョトンと首を傾げる
「昔のビデオだよ?」
実家に置いてきたはずの中学時代のビデオがなぜここにあるのか、と
柄にも無く混乱した俺は、テーブルの上のリモコンを急いで掴んだ
そして、再生停止ボタンを押そうとした瞬間
「ダメーーー!」
取り上げられた
「今、観てるんだから」
もう、と頬を膨らませて、大切そうにリモコンを抱えるその肩に手を置き
俺はため息を吐いた
「・・・・・・・・勘弁してくれ」
らしくないセリフと、未だ再生され続けている映像に
俺はやるせなくなり、目を伏せた
「せっかくの休みなのに――――――」
その声に、顔を上げれば
「私のこと放っぽらかしで、いつまでも寝てるから悪いんだよ?」
悪戯が成功したかのように微笑むその顔は、確信犯であることを物語っていて
「早く顔洗ってきて?」
たまの休みくらいゆっくり寝かせてくれ、と思うのに
「一緒に朝ごはん食べよう?」
なのに、怒るどころか文句さえ言えないのは
「・・・・・・あぁ」
惚れた弱み、ってやつだろうか
鼻歌を歌いながらキッチンへ向かう背中を見送って
俺は洗面所へと急いだ
その後ろでは、10年前の俺が誇らしげに笑っている
『俺様の美技に、酔いなっ!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「若気の至り」
久々のオフに、久々の遊園地。
氷帝学園男子テニス部が誇る可愛いマネージャーと
二人きりでお化け屋敷に入る権利も勝ち取って。
「ちょ、ちょっと待って!歩くの早いよ!」
俺は今、むっちゃ幸せや。
「そんなことあらへん。ホレ、サクサク行くでー」
足早になる理由は、一つだけ。
後ろから追っかけて来るであろう奴らから逃げおおせるためや。
お化け屋敷の仕掛けが動くたびにビクビクと跳ねる肩が愛しくて、
少し歩調を緩めると、
「しがみついてもええんやで?」
右腕を差し出した。
「だ、大丈夫!」
強がりな所も、
暗闇で、潤んで光る目元も、
俺を誘ってるとしか思えんくらい、愛しくて。
「遠慮するなや」
その手を取って、小さく口付けた。
「ちょっ・・・・・・・・・・な、なにしてっ」
必死で手を引き抜こうとしてるその姿も、
なにもかもが愛しくてしかたあらへんから。
「暴れたらあかんで?」
きつく抱き締められても、
「な、なんでっ!?」
しょうがないんや、って。
「お前が悪い。」
わかっとるん?
「は!?」
「そないに可愛い顔して俺のこと見とるから」
こんな目にあうんやで?
小さいあごの下に手をあてて。
目と目を合わせたまま。
少しずつ、距離を縮めて。
ガシッ―――――――
目を閉じようとしたその瞬間、すごい馬鹿力で首を引っ張られた俺が
後ろを振り返ると。
そこには、
「うす。」
「てめぇ、いい度胸してんじゃねぇか。あーん?忍足よぉ」
やっぱり、氷帝学園男子テニス部の面々が揃っとった。
当初の予定やったら今頃は。
すでにお化け屋敷を抜け出して
二人で観覧車にでも乗っとったはずなんやけどなー・・・・・・。
「好事魔多し」