千石 清澄
柔らかく陽射しの差し込む白いベッドの上で
小さく目を開けて腕の中を見れば
昨日と変わらないキミの寝顔がそこにある
そんな他愛のないことで緩む頬に
微かな笑いを漏らすと、腕の中でみじろいだキミが
まつげを小さく震わせてその瞳を開いた
「おはよ・・・・・・今、何時?」
少しかすれた声でそう言うキミが、起き上がる素振りを見せるから
「八時」
答えながら、その体をベッドに引き止めた
「・・・・・・もう起きないと」
キミが引き止める俺の腕を外しながら、その瞳を緩めて笑うから
「今日は日曜だよ?」
離しがたくて、キミを抱く腕に力を込めた
「でも・・・・・・」
さっきね――――――
「すごくいい夢を見たんだ」
だからさ――――――
「もう少しだけ・・・・・・」
夢の続きを――――――
「・・・・・・ね?」
夢の続きが気になるから、なんて理由にもならない言い訳に
「しょうがないなぁ・・・・・・」
そんな風に、キミが笑って折れるから
俺はどんどんワガママになる
再び腕に抱き込んだキミの体の温もりに
唇で触れた額の温もりに
こらえきれない幸せが吐息となってこぼれる
いつまでも、いつまでもこの瞬間が続けばいい
その柔らかい髪を指で梳けば
キミはくすぐったそうに首をすくめる
こんな幸せが――――――
いつまでも、続けばいい・・・・・・
だから日曜の朝は、いつまでもキミを腕に抱いて
さっき見た夢の続きが気になるから、なんて言いながら――――――
鳳 長太郎
緩い気配が漂う日曜の午後
窓の外では静かに雨が降り続いていた
俺は時計を見ながら部屋の中をうろうろと歩き回って
そうしていても、いっこうに鳴る気配のないチャイムが
もしかしたら壊れてるんじゃないか、なんて
何度も玄関と部屋を往復している自分に
こっそりため息をついた
ため息をついた分だけ幸せが逃げていくんだよ、と言っていた
先輩の言葉を思い出して慌てて息を吸い込むけど
そんな事をしていても、やっぱり先輩が現れる様子はなく
約束の時間からもう30分が経過した時計の針を一瞬見つめて
俺は家を飛び出した
徒歩で10分も離れていない先輩の家に向かって歩いていると
通りかかった公園の中に、見慣れた傘を差す後姿が見えて
俺は慌てて駆け寄った
「・・・・・・先輩?」
声をかけると、その後姿が勢い良く振り返った
「チョタ?」
ミャー
先輩の声と重なって聞こえたその鳴き声に
「・・・・・・どうしたんですか?」
そう聞くと、先輩は腕の中に抱えた大きなバスタオルを少しめくって見せた
「捨てられてたの・・・・・・どうしよう」
瞳を泣きそうに潤ませて俺を見上げる先輩に
「と、とりあえずウチに――――――」
一瞬、見惚れて足がよろけた
「チョタ、大丈夫?」
そう言って心配してくれる先輩に
「大、丈夫です――――――」
そんなこと言えるわけもなくて
俺は先輩の腕から仔猫を受け取ると、急ぎ足で家へと向かった
暖房を最強にして暖めた部屋で、仔猫は一生懸命に牛乳を飲んでいた
「お腹すいてたんだね」
笑いながら先輩は仔猫の頭を撫でた
「先輩は、30分もあそこにいたんですか?」
俺がそう聞くと
「うん・・・どうしていいかわからなくなっちゃって・・・」
チョタが来てくれてよかった、なんてキレイな笑顔で言うから
俺は思わずその体を抱きしめた
しっかりしているようで、どこか頼りない先輩を守れるように
俺はそう願いながら
だからずっと――――――
「ずっと、そばに居てください」
ずっと、そばに――――――
越前 リョーマ
『ごめん、日曜の約束ダメになっちゃったの』
受話器から聞こえてきた、その唐突な言葉に
『バイト先が人手不足で―――――』
ため息がこらえきれなかった
『・・・・・・ごめんね』
ずるいんだよね
そんな泣きそうな声で謝られたら
『いいよ、別に』
そう言うしかないじゃん
だけど、電話を切った後
急にポッカリとあいた日曜の予定
バイトのせいで次々とつぶれた約束の数を
数えながら、やっぱりため息がこらえきれない
やっと会えると、思ってたのに―――――
人で溢れた日曜の夕方の街
俺はガードレールに座って、目の前の扉が開くのを待ち続けていた―――――
「・・・・・・あれ?リョーマ?」
扉を開けて出てきたキミが、俺を見つけた途端
「ど、どうしたの?」
そんな風に笑顔になるから、俺は思わず笑ってしまう
「この後は予定ないんでしょ?」
だったら付き合ってよ、と言うと
やっぱりうれしそうに笑ったキミの手をとって、俺は歩き出した
「・・・・・・いつまで笑ってんの?」
歩きながら横を見れば、キミの頬はまだうれしそうに緩んでいて
わざとらしくそんな風に聞くけど
「だって・・・・・・」
返ってくる言葉は、だいたい予想がついてる
「今日はもう会えないと思ってたから」
すごくうれしかったんだもん
そう続けられた言葉に、俺の頬も次第に緩んでく
「最近なかなか会えなかったから、淋しくて・・・・・・」
バイト中もずっとリョーマのこと考えてた、なんて言いながらキミが笑うから
俺はつないだ手が熱くなってくのを感じた
ねぇ、俺も同じだよ
会えない日は淋しくて、ずっとキミのことを考えてる
キミが隣に居る時はささいな事にしか思えないような不安も
キミが居なくなった途端、飲み込まれそうに大きく感じる
離れたら生きていけそうにない、なんて
女々しいことは、決して声にしたりしないけど
いつか、きっと―――――さらいに行くよ
キミを取り巻くすべてから
ずっと、そばに居て欲しい
今はまだ、口にしたりしないけど
いつか、きっと―――――
跡部 景吾
寝汚いお前を叩き起こすため、なんて名目で手に入れた合鍵で
目の前の扉を開いて中に入ると、やっぱり―――――
いつまで寝てるつもりだよ?
待ち合わせ場所に、いつまでも現れないお前に
(いつものことだ―――――)
そう思った頭のその端で
もしかして・・・・・・なんて
心配でたまらなかった俺の気持ちなんて
お前は少しもわかっちゃいねぇんだろ?
「おい、いつまで寝てんだよ」
叩き起こして文句の一つでも言ってやろうと思ってたのに
その声は小さく自分の耳に響いただけで
瞳を閉じて眠り続けるお前の前髪を指で梳きながら
俺は思わず苦笑した
しばらくその寝顔を見つめていると
微かにまつげが震えて―――――
「あ・・・・・・あれ?」
状況をまだよく飲み込めていない様子のお前に
「いつまで寝てんだよ」
わざと、素っ気ない声を出す
「ごめんっ、ちょっと待っててっ」
そう言って勢いよく起き上がろうとしたお前を引き止めて
「いいから、ここに居ろよ」
まだ少し眠そうにまばたきを繰り返す瞳を見つめた
「え?でも、映画観に行くって―――――」
「いいから」
二人きり
窓の外に広がる晴れた空を眺めながら―――――
たまにはこんな日曜も、悪くないだろ?
忍足 侑士
日曜の夜は、少し嫌いなんや
金曜の夜から土曜をまたいで
ずっとそばに居った温もりと
離れがたくて、いつまでも―――――
暖かい部屋の中
テレビに夢中になっとるフリを続ける
「そろそろ・・・・・・」
帰らなくていいの?なんて
耳に馴染んだソプラノも、聞こえんフリして
気付いとるんやろ?
帰りたない―――――
離れたない―――――
そんな、俺の悪あがき
もうとっくに、気付いとるんやろ?
「あ・・・・・・」
小さく聞こえた声に、俺が思わず振り返ると
「雪・・・・・・」
窓の外で静かに雪が降り始めとった
「ね、侑士。雪だよ」
大きな瞳をキラキラと輝かせて笑みを浮かべた顔に
俺は1つキスを落として
「やばいわ―――――」
呟いて、笑みを浮かべた
「どうしたの?」
聞かれた言葉に
「俺、帰れへんやん」
俺がそう答えると、目の前にある二つの瞳がまんまるになった
「え?」
首を傾げたその顔を見つめて
「今、外に出たら―――――」
困ったような表情をしとる、その顔にもう1つキスを落として
「寒くて―――――」
淋しくて―――――
「死んでしまうかもしれへん」
逃げ道を少しずつ塞いでく
「こんな日に、俺を外に放り出すようなこと・・・・・・」
せぇへんよな?
「でも、明日学校―――――」
その言葉の続きは、やっぱり聞こえんフリをして
突然降り始めた雪に感謝しながら
俺はその唇を、キスで塞いだ
日曜の夜も―――――
どんな夜も、そばに居たい
「好きやから―――――」
なぁ、そばに居ってくれへん?