笑い声か、泣き声か。
響く音は、異様な色。
感嘆か、後悔か。
感謝か、懺悔か。
いつの日も、犯す罪は瞑々裏。













第五夜












「三階の廊下にはね、高名なお坊さんの碑が埋まっているんだって」
コンクリートと共に知らず知らずの内に練り込まれて、と続いた言葉は雰囲気にそぐわず明るいものだった。
話し手は、そうとう機嫌が良いらしい。
「当時の少年達の他愛ない悪戯だったらしいよ、でも・・・・・・・・・その罪は甚大だ」
言葉が区切られるのと共に、階段は終わり、三階へと辿り着く。
「それまでそのお坊さんの命で治めていた悪霊が開放されて、その被害にあった人達の泣き声が、
今はこの廊下に染み付いてるらしいよ」
古い建物にはありがちな話だよね?と笑う不二とは対照的に、他の全員の顔は引きつっていた。


「・・・・・・・・・・・・大丈夫、には僕がついてるから、ね?」


その言葉に、の頬がさらに引きつる。
怪談話が、よりいっそう現実感を増したからだ。
「で、結局・・・・・・廊下から泣き声が聞こえるんだろう?」
河村は自分の足元を指差しながら言った。
「そう・・・・・・・・・・・・でも、聞こえないね」
言いながら笑顔を浮かべた不二のその腕は、いつの間にかの腰に回されていた。
「六つ目に、行く?」
そう言って不二にたずねられた乾は、首を横に振った。
「いや、次は時間の指定があるんだ」
その言葉を聞いた全員が、なにかに耳を傾けるように、なにかを探るように、黙り込む。
「こんな時は―――――――――アレ、っスね」
沈黙を破ったのは、越前だった。
「あぁ・・・・・・アレだな」
言葉を受けたのは手塚である。
「アレ、か・・・・・・」
河村はなにか思い悩むように眉を寄せ。
「そうだな、アレしかないな」
乾の言葉で、三人の言う『アレ』は確定事項となったらしい。
「アレ、って・・・・・・なんスか?」
桃城が恐る恐る口を開くと、不二が学ランの胸元から何かを取り出した。


『百物語』に決まってるじゃない


やだな、桃、なんて軽い笑いとともに吐かれた言葉に、桃城は固まった。
そうこうしている内に、不二の胸元から出てきた細いロウソク(お誕生日仕様)が窓際に並べられていく。
「ちょ、ちょちょちょっ、ちょっと待ってくださいよー!」
不二の腕を掴み止める桃城の方を向いて。


じゃあ、コック――――――――


言いかけた言葉は、激しい叫び声により遮られた。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「どうしたの、桃?」
不二は穏やかな調子で問うが、桃城は。
「言ったら呪われますよっ、の、呪われますよっっ!?」
二回も繰り返してしまうくらいの衝撃を感じたらしい。
「―――――――て・・・・・・今度は・・・何、やってるんスか?」
問われた不二の手には、先程のロウソクが握られていた。
火を灯したそれを斜めに傾けて、廊下に描かれていく不可思議な模様。
「クス――――だって、必要でしょ?呼び出すんだからさ、コック――――――――」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
再び言葉を遮られた不二の足元には、もうすでにナニカの原型が刻まれていた。
「それ違いますよ!絶対違いますよ!出てくるのコックリさんじゃないっスよ!?何呼び出すつもりっスか!?」
桃城が叫んだ次の瞬間。
「・・・・・・あ。」
全員の視線が桃城に集まった。
「クス――――呪われちゃった、ね。桃」








時刻は現在、午前零時の少し前。


五、泣き廊下










>>第六夜