耐えようもないのは。 夢見た自分か、現実か。 どこから逃げて、どこへ行くのか。 逃げる先には、いつも闇。 |
第六夜
「で、この教室で何が起こるんだ?」
静かにそう聞いたのは、大石だった。
「落ちていくらしい」
男が、と答えた乾は、時計に目を向けた。
「午前零時、五分丁度に・・・・・・窓を見ると」
静かな声は、常より固い。
「あと・・・・・・三十秒か」
その声を最後に、また室内には沈黙が訪れる。
秒針が一つ進むたびに、身を包んでいく緊張感。
やがて、それは12を回り。
「・・・・・・・・・何も、起こらないな」
窓に向けられた全員の視線がゆるゆると動き出し、やがて緊張感も解けていった。
「ぷっ」
笑い声が一つ。
「ククッ」
二つ。
やがて全員が豪快に笑い出し。
「はー、緊張した」
菊丸が伸びをすると、目を見合わせた全員が窓に背中を向けた。
「さぁ、次で最後だ」
乾が言いながら教室の扉に手をかけた。
「じゃあ、行くか」
手塚が乾の後に続き。
「次はなんだったっけー?」
菊丸の言葉を聞きながら、最後尾に立っていたも室内から一歩出ようとした、その時。
「こんなハズじゃなかったのに」
聞こえた声は、確かに聞き覚えのないものだった。
隣に立つ不二を見上げると。
「どうかした、?」
横に居るのは不二。
最後尾に居る自分。
自分の後ろに立つ者は居ない。
だけど、後ろから。
後ろから、聞こえた声。
は勢いよく振り返った。
そこには、誰も居ない。
「・・・・・・・・どうかした、?」
訝しげに聞いた不二に、告げるか告げまいか、は悩んだ後に告げない事にした。
「なんでもないっ」
聞こえた声は、きっと幻聴だと。
言い聞かせながら、は粟立った自分の腕をぎゅっと握り締めた。
「次は、用務員室だったよな?」
階段を下りながら、聞かれた言葉には強く頷いた。
早く会いたかった。校内に居る中で、唯一の大人である山崎に。
「そういえば・・・・・・用務員室って」
どこだったっけ?と聞いたのは菊丸で。
「普通、正面玄関の前だろう?」
答えたのは手塚だった。
「え?でも、正面玄関の前にはなんもないよ?」
そんな話をしている内に、一行は一階に辿り着いていた。
「とりあえず、正面玄関の方に行ってみる?」
そう言った菊丸に導かれて、全員が正面玄関を目指した。
「やっぱり、ないね」
辿り着いた正面玄関には、教員と来客用の下駄箱が並び、それ以外の何もありはしなかった。
「あとは・・・・・・どこだ?思い当たる場所はあるか?」
手塚の言葉に全員が考え込むが、どれだけ校内の地図を思い浮かべても、用務員室の場所だけが出てこない。
終電は午前一時。
タイムリミットが、もう近い。
時刻は現在、午前零時二十五分。
六、落下男