仕込みません 仕込めません 仕込ませません
夕食も食べ終わり、寝るまでの時間をリビングで過ごしていると。
「そういえばさ、コウノトリってどうやったら来るのかな?」
今日もまた、はコウノトリについての疑問を自問自答しはじめた。
あの――――忘れられない出来事として俺の頭に刻まれた土曜日から、一週間が経ち。
俺は未だに、のこの思い込みを訂正できないで居る。
しかし、今日こそは言わなければ――――――――
「呼ぶのかな?呼ぶ?どうやって?」
今こうして俺がためらっている間にも、の中ではどんどん話が進行している。
このままではいけない。
「」
俺は、立ち上がって室内をうろうろと歩き回っているの肩に手をかけ。
「重要な話がある」
そう言いながら、ソファーに座らせた。
しかし、どうやって切り出したらいいものか・・・・・・。
「あ、もしかしてコウノトリ来た!?」
――――――――来ない。
絶対に来ない。
一生掛けても来ない確率100%、だ!
「コウノトリが赤ん坊を連れて来る、というのは迷信だ」
一息に言い切って、俺は少し後悔した。
の瞳が、悲しそうに潤んだからだ・・・・・・。
「なんで?貞治が教えてくれたんじゃん・・・コウノトリが連れてくるんだよ、って」
泣きそうに歪んだままの瞳でが俺を一心に見つめる――――――――いや、だめだ!
ここで折れたらいつもと同じだ!
今の俺がすべきことは、コイツの頭から『コウノトリ』という単語を抹消することだけだ!
惑わされるな!
「じゃあ・・・じゃあさ、コウノトリが連れて来ないなら、誰が連れてくるの?」
両目に溜まった涙をこぼさないように懸命に瞬きをこらえているのだろう。
必死に俺を見つめるの瞳に、俺の心は揺れた。
「誰も、連れては来ない」
必死に搾り出した俺の短い一言に、は驚いたように瞳を見開いた。
その拍子にこぼれた涙が一滴、その頬を伝った。
それに一瞬目を奪われた俺は、慌てて視線を元の位置に戻した。
が突拍子もないことを言い出す前に、話を終わらせなくてはいけない。
そうしなければ、前回と同様の結末が待っていることだけは確かだ。
「赤ん坊は、発生するんだ」
「発生!?どこに!?」
思いがけず俺の言葉に食いついてきたに、俺は驚きが隠せなかった。
「腹の中に」
言ってから説明が適切ではなかったことに気付き訂正しようとすると、が感心した表情で口を開いた。
「あ、だから妊婦さんはお腹が大きくなるのかぁ」
言って笑みを浮かべたに、俺はひとまず安心した。
しかし。
「あぁ、赤ん坊は母体の中で育つからな」
俺が再び口を開いた瞬間。
「育つの!?」
割れんばかりの大声が室内に響き渡った。
「あ・・・・あぁ。どうかしたか?」
「ど、どのくらいまで育つの?」
恐る恐る、といった風体で聞いてくるに、俺は右手と左手を離し、距離を確かめながらその大きさを表して見せた。
「産まれる時はこのくらい、じゃないか?」
そう言っての方を見ると、下を向き考え込んでいるのが目に入った。
「・・・・・・・・・・・どうやって取り出すの?」
下を向いたままそう聞いてくるに、俺はが恐れる理由を察した。
「取り出す、というより、出てくるんだ」
「どこから・・・・・・・・?」
呆然と俺を見つめそう呟いたが次の瞬間、急速にその瞳に生気を取り戻した。
「あ、やっぱりいい!答えなくていいから!なんか、私・・・・・・・・・・・・・・わかった気がする」
俺の答えを待たずに、はそう言ってソファーから立ち上がり――――――――
床に座り込んだ。
そして一言。
「・・・・・・・・・・・無理。」
俺はその言葉を聞き、確かに理解してはいるようだな、と思った。
「無理だよ、絶対無理だよ、出てこないよーーーーーーっ」
そう言って膝を抱えたをどうにか宥めようと、俺が腰を上げた瞬間――――――――
「絶対無理だから!」
はそう宣言して顔を上げた。
「欲しければ、自分で産んでね」
きっぱりとそう言い切ると、は立ち上がって寝室へと入っていった。
――――――――カチッ
扉を閉める音の後に聞き捨てならない音が聞こえた気がした俺は、寝室の扉のノブを回した。
しかし、やはり何度回しても扉は開かない。
「!どうしたんだ?」
「絶対に産まないから・・・・・・・・・・・・・これからは出来るような行為も自粛することにした」
「ちょっと待て、!」
「だから、貞治はそのソファーで寝て!」
一時間後、俺はどうにかの説得に成功し、寝室のベッドの上での安眠を手に入れたのであった――――――――
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